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米長期金利はなぜ急上昇しないのか─FRBの「市場との対話」

市場と「対話」できるFRBの能力もあって、長期資金が世界中から米国市場に集まると考えられます

インフレ圧力が一時的でない可能性を認めたFRB

米国では、コロナ禍からの予想外に力強い景気回復に伴うインフレ懸念で、残存年限が長いゾーンの国債利回りに上昇圧力が高まりやすくなっています。ところが、FRB(米連邦準備制度理事会)が直近の6月FOMC(連邦公開市場委員会)で利上げ時期を2024年から23年へ前倒しする可能性を示唆し「タカ派」(金融緩和縮小に前向き)的と市場に受け止められたにもかかわらず、10年国債利回り(長期金利)など長期ゾーン金利が急上昇(債券価格は下落)せず、逆に一時的に低下する場面もありました。何故でしょうか。

理由は、これまで「インフレ圧力は一時的であり忍耐強く金融緩和を続ける」と繰り返してきたFRBですが、パウエル議長が会見で想定を上回るインフレが長引く可能性を認め、必要なら政策を調整する用意があることに言及、ドット・チャート(図表参照)にも変化があったことで「FRBは後手に回ることなくインフレ抑制に動いてくれる」と長期運用の債券投資家がひとまず安堵したためと考えられます。

20210628_insight.pngインフレは債券投資の最大の弱点です。インフレで既保有債券の実質価値の目減りが見込まれれば、一旦売却し、より利回りが高くなった債券を新たに購入する、という債券ポートフォリオ入替えを進める機関投資家が増えそうです。年初からの金利上昇局面はこうした動きによるものとみられます(後述)。しかし6月FOMCで、「行き過ぎたインフレはFRBが抑えてくれる」との安心感から債券ポートフォリオ入替えが落ち着き、金利は急上昇しなかったと推測されます。

これに伴って、金利の急上昇を見込んでいた短期運用の投機筋は、ショート(売り持ち)していた債券を買い戻さざるを得なくなり一時的な金利低下につながった模様です。

「インフレを抑えてくれる」とFRBを信用した市場

債券市場におけるインフレ期待を示すとされる、物価連動債(TIPS)と通常の国債との利回り差であるブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)は、5年物も10年物も、コロナ禍による急低下から持ち直し、年初に2%を超え、5月半ばに(リーマン危機から持ち直した)約10年前とほぼ同水準になりました。何年間も2%超のインフレが続くと市場はみているのです。

つまり債券市場は、「インフレ圧力は一時的」と繰り返してきたFRBの認識に、納得していなかったのです。「インフレの兆候は一時的か、米金融当局の認識に市場は確信持てず」(Bloomberg、5月12日)とも報じられました。

期待インフレ率の上昇が止まったのは5月19日頃です。この日、4月のFOMC議事要旨が公表されました。4月会合では「サプライチェーンのボトルネックや原材料の品不足(という供給制約)はすぐには解消せずインフレ圧力は来年も続く(beyond this year)」と多くの委員(a number of participants)が判断、従来の「目先の数ヵ月間」の一時的なインフレ圧力との認識を改めたのです。そして「今後数回の会合のどこかで、量的金融緩和の縮小に向け検討を開始することが適切」と多くの委員が判断したことを4月会合の議事要旨は示しました。このFRBの認識変更をより明確に打ち出したのが今回の6月会合でした。こうした認識変更に市場が納得し「インフレ抑制に動いてくれる」とFRBを信用したことで、市場のインフレ期待はひとまず落ち着き、長期金利等の急上昇も回避された形です。FRBの「市場との対話」が金利急上昇を回避した、と言えそうです。

対話できない日銀に、募る市場の不信感

インフレ圧力が一時的でない可能性を認めたパウエル議長会見の2日後、日本銀行の6月会合の黒田総裁会見は、「市場との対話」能力の落差を市場に印象づけました。

「過去30年間到達していない2%物価目標にこだわり2%達成まで金融緩和を止めない日銀の正当性をどう考えるか?」と、市場の日銀への不信感を代弁するような質問を今回も根気強く続けた記者がいました。平成バブル期ですら物価は1.3%、潜在成長率も米国より著しく低い日本経済で、米国と同じ2%物価目標に固執すれば、緩和縮小はいつまでも無理です。今次会見ではついに海外の通信社からも「景気が回復し、好循環が回り始めても、2%物価目標が達成されるまでは、(現状ゼロ%の)長短金利操作目標を引き上げないと理解してよいか?」と質問が出ました。

黒田総裁は「テーパリング(量的金融緩和の縮小)を米国がして、日本はまだそこまで景気回復に到っておらず、2%の物価安定目標にはまだ遠く、ずっと続ける訳ですから、円高でなく円安が見込まれる」と述べる場面もありました。安倍自民党総裁(当時)に強要された2%物価目標をいつまでも撤回せず、市場の懸念に寄り添わない日銀。コロナ感染拡大懸念のある五輪開催に突き進む日本の市場から海外資金流出や円安が進む「日本売り」の可能性もあり、日銀の姿勢が「日本売り」を加速させないか気がかりです。

(執筆者)
明治安田アセットマネジメント株式会社
チーフストラテジスト
杉山 修司

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