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米長期金利2%台に上昇か─予想外に長引くインフレ圧力で

米長期金利は1.5~2.25%での推移が見込まれ、金融緩和の縮小開始は7~9月頃とみられます

「インフレ圧力、来年も続く」と認識を変えたFRB

長期金利(10年国債利回り)が3月末に1.7%超へ急上昇した米国債券市場では、「当面1.0~1.75%で推移」との見方が主流でしたが、最近、レンジを切り上げ「1.5~2.25%で推移する」とみる市場参加者が増えつつあります。

きっかけは、FRB(米連邦準備制度理事会)が公表した4月会合の議事要旨です。前回3月会合までは「コロナ対策の経済活動制限の緩和が進めば目先の数ヵ月間は供給制約(supply constraints)等で一時的にインフレ圧力が高まってインフレ指標は物価目標の2%を超える」とほとんどの委員(most participants)がみていました。しかし直近4月会合では「サプライチェーンのボトルネックや原材料の品不足(という供給制約)はすぐには解消せずインフレ圧力は来年も続く(beyond this year)」と多くの委員(a number of participants)が認識を改めたのです。

そして「景気の急速な回復が続けば、今後数回の会合のどこかで、国債等の購入ペース変更に向け検討を開始することが適切」と多くの委員が認識していることを4月会合の議事要旨は示しました。年内の会合予定は6、7、9、11、12月ですが、「購入ペースを減速する時は事前に市場に知らせる」とのFRB方針等を踏まえると、次回6月会合よりも7~9月頃の国債等購入ペース減速決定の蓋然性が高そうです。長期金利も3月末の1.7%台を上抜け上昇するでしょう。

利上げ効果のあるツイスト・オペをFRBは検討か

こうした情勢下で、クラリダFRB副議長がイールドカーブに関して意味ありげな講演をしたのです(5月17日)。「FRBの政策意図はイールドカーブ全体の水準変化ではなく、イールドカーブの傾きの変化によって示される」と説いた講演です。この講演で何を伝えようとしたのでしょうか。

講演の1週間後、クラリダFRB副議長は「インフレが高進した場合、FRBは景気回復を軌道から外れさせることなく対応できる」(ロイター、5月25日)と発言しました。これで謎が解けました。つまり「①国債等購入ペース減速でイールドカーブ全体の上方シフトは許容するが、②イールドカーブの傾きをスティープ化させる(傾きを急にする)ことでインフレ高進を抑制する」という計画がFRBにあることをクラリダ講演は伝えようとした、と考えられるのです。

かつて不況期にFRBは、イールドカーブの傾きをフラット化する(傾きを平坦にする)ため、短期国債を売却、長期国債を購入するツイスト・オペレーションを実施したことがあります。これはFRBが保有する国債の残存年限を長期化させる方向でのツイスト・オペであり、景気浮揚策として実質的な利下げ効果を持つとされます。

逆に、FRB保有国債の残存年限を短期化させるツイスト・オペを実施すれば、景気過熱やインフレ高進の抑制策として実質的な利上げ効果が見込まれ、当面、利上げせずに済みます。このツイスト・オペなら、利上げをしない点で、「なお復職できない全米840万人の国民のため忍耐強く金融緩和を続ける」(4月会合の会見でのパウエル議長発言)というFRBの方針を撤回せずに済みます。

つまりクラリダFRB副議長はイールドカーブに関する講演で、この「ツイスト・オペの用意がある」と伝えようとしたのではないかと考えられます。

過去30年以上続く長期金利の低下トレンド

そうだとすると、①国債等の購入ペース減速をFRBが決定すればイールドカーブ全体が上方シフトする可能性があり、同時に、②イールドカーブの傾きを急にするツイスト・オペも決定すればFRBは短期債を購入、長期債を売却し始めることになります。イールドカーブの傾き度合いを計測するのに2年債と10年債の利回り差や、5年債と30年債の利回り差をみるのが一般的なので、FRBは2~5年債を購入、10~30年債を売却する可能性があります。このため長期金利(10年債利回り)には上昇圧力がかかりそうです。

一方で、長期金利は30年以上、低下トレンドが続いています(図表参照)。社会の高齢化に伴う年金運用の債券需要増加等が長期低下トレンド形成の背景と言われます。長期運用に適した最も典型的な資産クラスとして債券が選好されるゆえんです。右肩下がりの抵抗線が2%台前半付近を通っていることから、抵抗線を上抜けて上昇するとしても一過性の動きになりそうです。こうしたことから長期金利は年末にかけ概ね1.5~2.25%で推移しそうです。

20210527_insight.pngなお、国債より利回りが高いためインフレ圧力による悪影響に対する収益バッファー(緩衝材)ともなるIG(investment grade、投資適格級)社債は、景気の底から山へと力強く動き出した今、選好されやすいでしょう。

(執筆者)
明治安田アセットマネジメント株式会社
チーフストラテジスト
杉山 修司

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