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来春4月前後、株価乱高下か─一転して米住宅不況へ

コロナ対策のローン返済猶予の失効後、不良債権回収で住宅市況が急落、金融不安となりそうです

史上最高値を更新した米株高に浮かれる市場

米国でムニューシン財務長官が新型コロナウイルス対策の緊急融資制度の未使用資金の返還をFRB(米連邦準備制度理事会)に求めました。景気回復期待で米国株(ダウ平均株価)が歴史的な3万㌦達成を目前にした11月のことです。FRBは異議を唱え、シカゴ連銀エバンズ総裁が「雇用情勢や景気の勢いを正確に判断するには来春まで待たねばならない」と述べました(11月20日)。

20201217_insight.png銀行への返済猶予の奨励策が年末に失効

コロナ対策の財政支援法(CARES法)は、銀行や地域金融機関等に家計や企業への返済猶予を奨励します。年末までの時限措置で、返済猶予すれば正常債権のまま、貸倒引当金の計上も不要としました(注1)。このため来春(銀行等が2021年1-3月期決算を発表する4月)迄は、延滞率も実勢を示さず、コロナ禍の打撃を把握できないのです。

(注1)COVID-19: Consumer Loan Forbearance and Other Relief Options, Congressional Research Service, Oct.23 2020

返済猶予が失効すると通常の延滞債権に戻ります。延滞が続き4ヵ月経つと、差し押さえ住宅物件の売却による不良債権の回収が始まるのが一般的です。サブプライム問題が発端のリーマン危機では、差し押さえせず償却(全額を損失計上)せざるを得なくなった大手米銀もあった模様です。現在のように住宅市場が活況ならば、任意売却で返済してもらう選択肢もありますが、住宅市場の売り圧力になります。

ノンバンクの返済猶予は来春3月にも失効

エバンズ発言の前日、地域金融担当のFRB高官は全米の住宅ローン市場の脆弱性を問題視しました(11月19日)。銀行規制の強化によって、資金調達力の弱いノンバンク(ローン組成と集金回収の専門業者)の市場シェアが急拡大。銀行が主体で20~30%だったリーマン危機時のシェアが現在は50%、しかも低所得者層向けローンが主体です。

家計が返済不能に陥ると、ノンバンク専門業者が一時的に肩代わりして住宅ローン債権の投資家等へ支払いを続けます。FRBのゼロ金利政策で住宅市場が活況な現状では、新たなローン組成業務からの資金流入が旺盛なので、集金回収業務での資金流出をカバーできています。

CARES法はノンバンク専門業者に、家計の求めに応じ最長12ヵ月間の返済猶予を義務付けます。来春3月以降は返済猶予が失効、延滞債権の規模が表面化します。その時点で「4ヵ月先には差し押さえ住宅物件の売却が急増する」との警戒で住宅市況急落が見込まれ、資金繰り破綻する専門業者が続出しかねません。専門業者に融資する地域金融機関にも打撃で、金融システム不安になりかねません。

全米270万世帯の返済猶予が住宅物件の売り圧力

雇用市場は夏場にかけコロナ禍の打撃から急速に持ち直しつつあったとは言え、なお400万人もの人々が復職できていません(11月28日週)。感染は再び急拡大しており、米国景気は二番底へ悪化しかねない情勢です。

「返済猶予は全米で270万世帯と推計されるが、新たに返済猶予を求める世帯数が増加に転じており、12月第1週は8月初以来の高水準」(米抵当銀行協会、12月14日)です。開発されたワクチンが全米に行きわたり雇用情勢を改善させるには時間を要します。しかも、冒頭のムニューシン財務長官を突き動かしたとみられる共和党が議会上院を制する『ねじれ』では追加経済対策も解決策になり得ないでしょう。返済猶予中の潜在的な巨額の不良債権が、活況を呈する住宅市場を一転、住宅不況に突き落とし、金融不安をもたらす典型的な「不況のメカニズム」をたどるとみられます。

景気後退から金融不安まで1~3年超の遅れ

「リセッション(景気後退)入りから金融不安のピーク(不良債権の償却による銀行損失のピーク)まで過去には1~3年の遅れがあったが、今回はCARES法の返済猶予で更に後ずれしそう」と米議会スタッフは指摘します(注2)。

(注2)COVID-19 Impact on the Banking Industry: Lag Between Recession and Bank Distress, Congressional Research Service, Sep.102020

高値圏の株価ですが、来春4月前後に金融不安の予兆を突然、織り込み始め、株価は乱高下しそうです。「我々の生涯で最も厳しい景気悪化」とパウエルFRB議長が繰り返した意図がようやく理解されることでしょう。

90年前の世界恐慌に耐えたIG社債も受け皿か

株式から債券へ資産配分見直しを進める長期運用の投資家であれば、主要国の国債に加え、「1930年代の大恐慌でもデフォルト(元利払い不能)が殆ど無かった」とされるIG(Investment Grade、投資適格級)の国内外の社債が割安となった場合にポートフォリオへの組入れタイミングをうかがい始めることでしょう。

(執筆者)
明治安田アセットマネジメント株式会社
チーフストラテジスト
杉山 修司

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