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金融危機へ初期症状─企業、銀行、短期筋が資金をかき集める

経済活動停滞に伴う信用収縮に、換金売りの誘惑を断つ長期運用の哲学が試される局面と考えます

米国株、1987年ブラックマンデー以来の暴落

米国株(ニューヨーク・ダウ、以下NYダウ)は先週木曜日(3月12日)、1987年ブラックマンデー以来の大幅な下落となりました。翌金曜日(13日)は急反発したとは言え、先月半ばの史上最高値から20%超、下落しています(図表)。

20200316_insight.png換金売り殺到で米国の国債市場は「機能不全」に

一方、本来は資金の逃避先となる安全資産のはずの米国の国債市場までもが「異常かつ高度な機能不全」(ニューヨーク連銀、12日)に陥っています。「30年物国債のビッド=アスク幅(売値=買値幅)が、信用力の低いハイイールド債(非投資適格級)並みにまで拡大し、取引が困難」(米大手運用会社、CNBC放映、12日)になっています。

国債とりわけ長めの既発債(off-the-run)に換金売りが殺到し「市場がパンクした」模様です。新発債(on-the-run)は既発債より高値で取引される傾向があるため、この「市場の歪み」を収益源泉に「新発債を売り持ち、既発債を買い持ち」にする裁定取引等を、10年続いた低金利環境で巨額の資金を借入れてレバレッジを高め、手がけてきたヘッジファンドなど短期筋が、「資金借入れコストの急上昇に耐えられずポジション解消に動き、国債や株式等を投げ売りしている」との観測が浮上。「ヘッジファンド大手LTCMが破綻した1998年金融危機の初期に似ている」との声も聞かれます。

実際、ドルの資金調達コストは大きく上昇中です。ダウが急反発した先週金曜日、為替スワップ市場では対ユーロ、対円とも調達コストがさらに急上昇。ヘッジファンドに限らず、ドル資金調達困難化で、多様なドル建て資産で運用する機関投資家の投げ売り(後述)も誘発しかねない情勢です。

より信用力が低めの他の市場は、ほぼ取引不能に

また事実上、国債に次ぐ信用力とされるMBS(住宅ローン担保証券)市場も機能不全になっている模様です。これらよりも信用力が低い「バンクローン、ハイイールド債、ABS(資産担保証券)、CLO(ローン担保証券)等の市場は崩壊しかねない状態(vulnerable)」との声が市場で聞かれます。

リーマン危機対応を超える救済策を求める市場

このため、リーマンショック時には0.7兆ドル規模だったTARP(不良資産救済プログラム)を、今回はその2倍以上となる「2兆ドル規模のTARPが必要だ」(前出の米大手運用会社のCIO<最高投資責任者>)との観測も浮上しています。TARPは不良資産化した証券化商品等を米政府が直接買い取ったり経営難の金融機関に資本注入する救済策です。

資金借入れコスト急上昇は、企業や銀行の信用逼迫

では、資金借入コスト急上昇の原因は何でしょうか。新型肺炎の感染拡大で、売上げ急減が見込まれる航空会社や自動車メーカーなど大企業までもが、「従業員給与支払い等に備え(取引先銀行に設けていた)融資枠も使って、資金をかき集めている」ためと考えられます。

一方、銀行各行も、企業から急増しつつある融資要請に応じるため、市場での資金調達を強化している模様です。企業や銀行が一斉に資金確保に動くクレジット・クランチ(信用逼迫)は、株価大暴落から不況期へつながる典型的な初期症状です。かつて世界恐慌を招いたFRB(米連邦準備制度理事会)が、過去の失策に学んだことは幸いです(注)。

(注)「1929年の大恐慌直前と今との驚くべき共通性─FRBが招いた29年株価大暴落と世界恐慌の教訓」(週刊金融財政事情pp.32-36、2020年2月24日号)

資金供給が効かず、FRBはゼロ金利とMBS購入へ

すなわち、FRBは日曜日(15日)夜、緊急会合を開き、①政策金利をゼロ(0~0.25%)に引き下げ、②市場で取引困難なMBSを直接買取り、③日銀など各国中銀と協調してドル資金供給に万全を期す、と表明しました。声明文には「家計や企業にクレジット(借入金)が行き渡るよう、あらゆる措置を講じる用意がある」との異例の段落が挿入されました。

会見でパウエル議長は、先週の市場への巨額の資金供給策(1.5兆ドル規模)をもってしても国債市場の機能が回復していないことが日曜の「緊急決定の理由」と述べました。

リーマン危機の教訓で損切りしない長期運用筋も

ドル資金を調達して多様な米ドル建て資産に投資している機関投資家にも決定①~③は朗報でしょう。かつてリーマンショックの際、巨額資金を運用する日本のある機関投資家が、ドル資金調達に奔走。損切り売却の誘惑を断って長期運用の姿勢を貫き、結果的に「その後の相場の反発で売却損を確定せずに済んだ」との経験談も聞きます。短期視点の群衆行動と一線を画すべき、内外の機関投資家の長期運用の哲学が試される局面を迎えているようです。

(執筆者)
明治安田アセットマネジメント株式会社
チーフストラテジスト
杉山 修司

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