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FRBは2%超に物価を保てるか─米長期金利を乱高下させずに

新たな「2%の平均物価目標」はインフレを嫌う債券投資家に理解され難いことが弱点です

物価上振れは共通認識でもタカ派、ハト派が拮抗

FRB(米連邦準備制度理事会)の直近6月FOMC(連邦公開市場委員会)議事要旨は、予想外に旺盛なコロナ禍からの消費再開で「歴史的な力強さで米国景気は拡大している」と示しました。物価見通しは「先行き上振れする可能性がある」というのがFOMC委員19名の大多数の認識でした。

さらに(a)数名(several participants)は「月次インフレ指標で物価上昇が示され続ければ(FRBが重視する)長期のインフレ期待が過度に上昇しかねない」とのインフレ懸念を表明。ところが、(b)ほぼ同数とみられる数名(several other participants)が逆に、「物価見通しは下振れする可能性がある」と注意喚起したのです。

つまり、(a)タカ派(金融緩和の縮小に積極的な)委員のインフレ懸念に対して、(b)ほぼ同数のハト派(緩和縮小に消極的な)委員が正反対の物価見通しをぶつけ、言わば「中和」させたことで(a)(b)両論併記になった形です。ハト派(b)がタカ派(a)と拮抗する勢力であることを示唆した今回の議事要旨のこの箇所は「FRBは緩和縮小を急がない」と市場に印象づけました。しかし、大多数の委員が「物価見通し上振れ」(上述の下線部)を見込むのに、下振れも考慮した両論併記とは奇妙な気もします。なぜでしょうか。

インフレを嫌う債券投資家はタカ派姿勢を好感

もしも議事要旨の「数名のハト派(b)」が、FRBの新たな金融政策の枠組み「2%の平均物価目標」を支持する委員だったと推測すれば、奇妙ではなく違和感は生じません。2%を超えるインフレを一定期間(緩和縮小せず)容認することで、過去に2%を下回った期間と合算した長期平均で2%の物価目標を達成しようとする新たな枠組みです。

議事要旨は「前回の景気拡大局面でみられた物価下落圧力は今も続いていること」を「数名のハト派(b)」が根拠にしたことを示しました。これは、より長期視点で物価下振れに注意喚起をする「2%の平均物価目標」論者の発想そのものです。「金融政策でインフレを抑制するのは容易だがデフレ抑制は難しい」との立場をとる人々です。

一方、「数名のタカ派(a)」は、新たな金融政策の枠組みを支持しない委員と推測されます。これら委員のインフレ懸念を無視できなかったパウエル議長が、6月FOMC会見で想定を上回るインフレが長引く可能性を認め、必要なら政策を調整する用意があると表明するに到ったようです。これを受け、債券投資家が「FRBは後手に回ることなくインフレ抑制に動いてくれる」とひとまず安堵、10年国債利回り(長期金利)など長めゾーン金利は落ち着いた動きとなりました。インフレは、既保有の債券の実質価値を目減りさせてしまう脅威です。債券投資家のインフレ警戒を「数名のタカ派(a)」が代弁してくれた、と言えそうです。

新たな「2%の平均物価目標」がハト派の根拠

そもそもFRBが新たな金融政策の枠組みを必要とした理由は、過去30年以上にわたって、景気を冷却も過熱もさせない中立的な政策金利──すなわち中立金利の低下傾向が止まらないことから、利下げで景気浮揚しようとしても、ゼロ%以下に利下げできない制約ゆえ、景気浮揚が不十分となる不況期が今後増えていく、という「利下げの下限制約」(effective lower bound)の問題を打開するためでした。

この問題を長年研究してきた専門家がニューヨーク連銀のウイリアムズ総裁であり、FOMCでは副議長です。かつて「中立金利は2.5%に下がっている」とみたウイリアムズ副議長が、当初3.0%まで利上げを続けるとみられていたFRBが2.5%で利上げを打ち止めにして景気冷却を未然に回避した2018年当時のFOMCを主導していたとみられます(注)。

(注)MYAM Market Report「米国景気は巡航速度へ─緩和を終えたFRBは市場の過熱を警戒」(2018.12.25)

今回の6月議事要旨の「数名のハト派(b)」を主導しているのはウイリアムズ副議長と考えられます。「2%の平均物価目標」の理論をテーマにした講演(7月12日)で次のような趣旨を語りました。「過去に利下げの下限制約ゆえ不十分だった景気浮揚を埋め合わせる(make-up)ため、物価が2%を超えたり完全雇用に達した後も金融緩和を従来より長く続ける(lower-for-longer)。それにより、その後の不況期で利下げの下限制約があっても将来の『埋め合わせの緩和長期化』が期待されることで十分景気浮揚ができる」と。

「2%の平均物価目標」の理論上の弱点とは?

ところが「2%の平均物価目標」には弱点があります。従来よりも長く続ける金融緩和が終わった途端に、それまで低く抑えられていた長期金利など長めゾーン金利の急上昇が見込まれ、債券投資家に「FRBが後手に回ってインフレ抑制に失敗した」と不信感を持たれるリスクがある、とされているのです。こうした批判があることをウイリアムズ副議長も講演で認めています。

シカゴ連銀のエバンズ総裁は講演(7月15日)の質疑で「2%超のインフレを許容する一定期間とはどの位か?」と問われ「景気の底から山への循環のある一期間であり、2%超の物価が居心地良いと感じられるのに十分な期間」と答えました。そして「市場が不安になり金利が乱高下して緩和縮小に追い込まれる事態を招くことなく、どうやって(そんな長い期間)2%超の物価を保つのかがFRBの大きな課題」と述べました。FOMC委員からも批判がある新たな枠組みを、債券投資家に理解してもらうのは難しそうです。

(執筆者)
明治安田アセットマネジメント株式会社
チーフストラテジスト
杉山 修司

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